声明 : 表現の自由を侵害する 侮辱罪の法定刑引き上げに反対します
2022 年 5 月9日
共謀罪 NO !実行委員会
「秘密保護法廃止へ!実行委員会
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政府・法務省は、今国会に侮辱罪の法定刑を現在の「拘留(30日未満)か科料(1万円未満 ) 」から1年以下の懲役か禁固、30万円以下の罰金に引き上げる刑法「改正」案を提出しています。同法案は、4月22日に法務大臣の趣旨説明が法務委員会でをおこなわれ、審議入りしています。連休明けには委員会採決がおこなわれようとしています。
私たちは、侮辱罪の法定刑引き上げは、憲法の保障する表現の自由を侵害するものであり、次の理由により絶対に認めることはできません。

第一に、今回の刑法「改正」は、 SNS 、インターネット上における誹謗中傷で木村花さんが自殺に追い込まれるなどの事件の増加に対応するため、その被害を抑えることを目的としたはずですが、そうなっていません。必要な立法は、この間、急増する SNS 、インターネット上の誹謗中傷を対象としたものであり、単に、現行の侮辱罪の法定刑を引き上げれば対応できるという問題ではありません。
そもそも侮辱罪は侮辱の定義が曖昧であり、拡大解釈の恐れが多分にあります。政府案は SNS 、インターネット上における誹謗中傷対策というより、言論弾圧、表現の自由の規制に活用されかねません。これに対して立憲民主党の対案(通称、インターネット誹謗中傷対策法案 ) は 、 SNS 、 インターネット上における誹謗中傷の規制に焦点をあてています 。
同対案は、侮辱罪が規定されている刑法231条の次に「231条の2」として「加害目的誹謗等」を新設し 、 「人の内面における人格に対する加害の目的で、これを誹謗し、又は中傷した者は、拘留又は科料に処する」と、ネット空間における誹謗中傷を規制しようとしています。政府提出の侮辱罪法定刑引き上げは、立法事実に応えるものものではありません。

第二に、侮辱罪の法定刑引き上げは、憲法21条が保障する表現の自由に違反します。同条は「集会,結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する 。 」としています。表現の自由には、ほかの憲法の条文にある「公共の福祉」の名のもとの人権の制限規定はありません。つまりほかの権利より重要な権利とされています。それは、国家権力により、かつて言論、出版、結社などの表現の自由が奪われ、市民が戦争へと駆り出されていった苦い経験に基づくものです。
表現行為に市民の喜怒哀楽が込められるのは当然のことであり、政治家や官僚に侮辱的な言葉が投げつけられることはあります。表現の自由とは、そもそもそうした内容を含むものです。しかし、そうした意見、感情的な発言も、さまざま意見、論評などのなかで、もまれ、修正されることがあります。表現の自由は民主主義社会を維持・発展させるための基礎です。
現行の侮辱罪は「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する」というものですが、これは現行の侮辱罪が軽犯罪に位置付けられているためためです。したがって、基本的に逮捕・拘留はできません。しかし、法定刑が引き上げられれば、逮捕・拘留ができるようになります。たとえば、街頭で演説をしている政治家に対し 、 「お前なんか政治家にふさわしくないから政治家をやめろ!」というような批判を行ったとして、その発言が侮辱罪とされた場合、発言した者が逮捕されかねません。
これは、言論弾圧であり、表現の自由の規制です。それが、単なる危惧でないことは、2019年、北海道警察が、当時の安倍首相の札幌での演説に 、 「安倍やめろ!」と叫んだ市民を排除し、隔離した事件からも明らかです。表現の自由に対する規制は、最小限にとどめられなくてはなりません。欧米では侮辱罪より罪の重い名誉毀損罪について刑事ではなく民亊で対応しようという動きになっています。日本の侮辱罪の法定刑引き上げは国際的な流れに逆行するものです。

侮辱罪の法定刑引き上げは、表現の自由を保障する憲法 21 条に違反するものであり、断じて認めることはできません。言論弾圧・表現の自由の規制への道を開く、侮辱罪の法定刑引き上げに反対します。