政府の入管法改定案に反対する声明
2021年5月13日
日本国民救援会

菅内閣は入管法改定案を国会に提出し、衆議院法務委員会での採決がされようとしています。
政府は、改定案提出の理由として、現在の入管法の下では、国外への退去が確定したにもかかわらず退去を拒む外国人を強制的に国外に退去させる妨げとなっている事情があり、その結果、退去させるべき外国人の長期収容にもつながっていることを挙げています。
確かに、現行法では退去強制令書に基づく収容には期間の制限がなく、収容が長期化しています。しかし、現行法の下では、入国後に在留資格を失うと、原則的に ①難民認定を得て、在留資格を取得するか、②在留特別許可制度により、在留資格を取得するかの2つの道しかありません。しかし、日本では、①の難民認定は諸外国に比べ極端に厳しく、②の在留特別許可制度による在留資格を得た者の数は、難民認定者数よりさらに少ないのです。日本に在留する必要のある人に適切に在留資格を認めない入管行政にメスを入れないことこそ問題と言わなければなりません。
国民救援会は、日本で家族と同居し、事業を営んでいたナイジェリア人が冤罪に巻き込まれ、不法滞在者となったとして退去強制令を受けている人の事件(兵庫・えん罪花田郵便局事件)を支援しています。事件の前に永住許可を得ており、結婚して20年以上にもなり、子供がいてその育児と義母の介護のためにも日本に在留することが必要であるにもかかわらず、いまだに在留資格が与えられないでいます。自由権規約第17条が定める家族が共に暮らす自由が侵害されています(一般的意見16参照)。 上記の事例は、特殊なものではなく、現在の入管法には運用も含めて改善すべき点(裁判所の判断を経ない強制収容、極端に低い難民認定率、収容施設内での不十分な医療体制、精神的・肉体的暴力など)が多々あります。
今回の改定案は、上記のような問題点を改善するのではなく、なかでも問題なのは「難民認定の手続き中は送還しない」とする規定を見直し、3回目以降の難民申請については原則としてこのルールを適用しないという改定です。帰国を拒み在留を望む人は、帰国すれば身に危険が及ぶ恐れがある、日本に家族がいるなどの理由がある人が大半です。難民条約は難民の可能性がある人の送還禁止を定めており、現行法では認定手続き中は送還が停止されますが、今回の改定案はそれを骨抜きにするものです。難民申請者の実態を無視して退去強制にすれば、本国で迫害を受け、死亡することも容易に想定できると同時に、強制退去を拒否すれば刑罰の対象となり、これでは収容施設と刑務所の往復の繰り返しとなりかねず、長期収容の解消策とはなりません。
政府は、ドイツやフランスなどでも回数制限を設けているといいますが、こうした国々は初回審査で難民と広く認定しており、審査の壁が格段に高く国際的に不信をもたれている日本と同列には論じられません。また、国連の人権理事会特別報告者など4人が3月31日付で政府に届けた共同書簡で、「法案は移民の人権保護についていくつもの点で国際人権水準に達しておらず、見直すべき」と批判しています。
政府の改定案は、外国人も当然ながら同じ人間であり、人が生まれながらに有する権利を忘却し、入管行政の便宜を優先する思想にどっぷりとつかってしまっていると言わざるを得ません。
以上より、国民救援会は、政府の改定案に断固反対を表明します。改定案は、廃案にするしかありません。