21年11月
月間記事のまとめ
月間記事のまとめ
2021年11月15日
愛知地域人権連合
代表 丹波正史
理事長 加藤哲生
「愛知県人権尊重の社会づくり条例(仮称)骨子案」に対する意見
憲法が定める基本的人権には、自由権、生存権、平等権、社会権など、幅広い内容が包含されている。差別問題も人権問題の一つであるがすべてではない。差別問題にはさまざまな性格と解決方法の違いも存在する。個々の差別問題での重要度は社会状況や歴史過程などで相違する。部落問題のように、同和の特別法で33年間に約12兆円の事業費が投下され、生活水準も大きく改善され、「最後の超えがたい壁」とされた結婚も旧身分の垣根を乗り越え融合結婚が大半となっている。このような状況から部落差別を重要課題に位置づけるような県条例は社会的合意が得られない。
「愛知県人権尊重の社会づくり条例」と呼ぶ場合、以下の3点が留意されなければならない。
第1に、憲法の基本的人権を踏まえ、特定の差別問題を特別扱いすべきない。少なくとも「部落差別をはじめ」などという表現は使用してはならない。
第2に、「人権」を冠する場合、県民的合意がもっとも重要であり、この合意を得るための努力を図るべきである。部落問題解決の方策について関係団体での意見の相違がみられるように、仮に強い反対意見が存在するような場合、その反対意見の内容を十分に配慮すべきである。
第3に、差別解消の方策をはかる場合、とかく表現の自由に抵触する問題が内在しがちであるが、憲法上の「表現の自由」は権利の中でも優位的位置を占めるものであり、遵守されなければならない。
以上の基本的な諸点について、見解を明らかにされたい。その上で、以下の具体的な点を要求する。
1、「人権条例」であるなら、憲法の理念をうたい、具体的な人権項目を条例文に挿入すべきではない。もっぱら私人間を対象にした差別問題が前面に出されており、人権の中心を占める公権力による人権侵害が後景に退いている。さらに、差別問題にはさまざまな性格と解決方法の違いも存在する。個々の差別問題での重要度は社会状況や歴史過程などで相違する。今日の人権問題は、部落差別、ヘイトスピーチ、LGBTQ+、インターネット上の人権侵害のみに限定できるものでない。ましてや部落差別問題を特別扱いしてはならない。
2、「人権条例」で「検討の必要な人権施策の取組」として、①「同和問題(部落差別)」、②「ヘイトスピーチ(外国人)」、③「性的少数者」、④「インターネットモニタリング」、⑤「相談窓口」、⑥「人権に関する審議会」の6点をあげている。この6点のみで人権問題を網羅することは不可能であり、労働者の人権問題、ジェンダー平等の問題、在日外国人問題、障がい者問題など、多様な人権問題が無視される問題点をもっている。
3、「人権条例」という場合、とかく「県の責務」として「教育及び啓発活動の充実」「意識及び実態に係る調査の実施」などが条文化されるが、人権問題を県民の差別意識だけに矮小化するようなことは許されない。行政による制度の確立、条件整備の充実など、行政が本来成し遂げなければならない課題を明確に位置づけるべきである。たとえば、障がい者雇用における県教育委員会の障害者雇用率の低さなど、県自身が解決をはかるべき課題が少なからず存在する。
4、「人権条例」の中に「人権に関する審議会」設置が想定されているが、人権問題を審議するのであれば、この審議員の選定には公平・公正な委員の選出が不可欠であり、特定団体などの介入を許してはならない。
5、部落問題について言えば、部落解放運動の取り組み、近代的民主的な県民意識の前進、同和対策事業の実施などで、「もっとも深刻にして重大な社会問題」という状況は解消され、部落内外住民の交流と融合を前進させる中で、差別事象も漸進的に克服できる状況にある。ましてや「部落差別の解消の推進に関する法律」を盾にした部落差別についての県条例化に強く反対する。その理由は、「部落差別の解消」と言いながら、旧身分の違いによる新たな垣根を人為的にしかも法的につくることは、部落差別の固定化、永久化の道となり、新たな差別をうみだしかねない。「部落差別の解消の推進に関する法律」の「附帯決議」(「註」参照)では、「過去の民間運動団体の行き過ぎた言動等」が「部落差別の解消を阻害していた要因」という認識を前提に、その点について「対策を講ずる」ことに「格段の配慮」を求めている。こうした視点を踏まえて県条例のあり方も検討されなければならない。
なお、県下のある旧同和地区の人権擁護委員に「部落差別の相談状況」を尋ねたところ、以下のようなコメントをいただいた。「人権擁護委員として、地域の皆さんの人権相談などを行っていますが同和問題についての相談を受けたことは一度もなく、他地域との交流が大きく前進しているように感じます。ある自治体の意識調査でも、子どもや女性問題と比較しても市民の関心は低い状況です。以前と比較して差別や偏見が薄れ、同和問題が大きく改善されてきています」
このようなコメントからすれば、「部落差別の解消の推進に関する法律」を県条例に落とし込まなければあらない理由はない。
(「註」)部落差別の解消の推進に関する法律案に対する附帯決議(参議院法務委員会/2016年12月8日)
国及び地方公共団体は、本法に基づく部落差別の解消に関する施策を実施するに当たり、地域社会の実情を踏まえつつ、次の事項について格段の配慮をすべきである。
一、部落差別のない社会の実現に向けては、部落差別を解消する必要性に対する国民の理解を深めるよう努めることはもとより、過去の民間運動団体の行き過ぎた言動等、部落差別の解消を阻害していた要因を踏まえ、これに対する対策を講ずることも併せて、総合的に施策を実施すること。
二、教育及び啓発を実施するに当たっては、当該教育及び啓発により新たな差別を生むことがないように留意しつつ、それが真に部落差別の解消に資するものとなるよう、その内容、手法等に配慮すること。
三、国は、部落差別の解消に関する施策の実施に資するための部落差別の実態に係る調査を実施するに当たっては、当該調査により新たな差別を生むことがないように留意しつつ、それが真に部落差別の解消に資するものとなるよう、その内容、手法等について慎重に検討すること。
2021年11月2日
談話 10月31日投開票の総選挙の結果について
全国地域人権運動総連合事務局長 新井直樹
10月31日に投開票された衆議院選挙(465議席)は自公与党が公示前305議席を12議席減らして293議席になった。一方、「市民連合」と政策協定を結んだ立憲野党4党(立憲、共産、社民、れいわ)も、公示前123議席が110議席となり13議席減らした。与党補完勢力の維新は11議席を44に増やし、改憲勢力が334議席と310の発議必要数を超える事態となった。
今回選挙の特徴は、立憲4野党が統一候補をたてたことと、共闘候補として奮闘した62の選挙区では自民現職幹事長などを敗北に追い込むなど、大きな成果をあげた。
しかし、比例では立憲も共産も議席を減らすこととなった。
自民党総裁選から続く17日間の短時日での決戦に持ち込んだ与党の戦略と野党の政権構想に悪罵する宣伝が激しく行われた中での選挙であった。
今後、「市民連合」と4野党共通政策にある「命を守るために政治の転換を」で掲げた、憲法にもとづく政治の回復などの実現に向けた運動を強め、改憲阻止、貧困と格差の是正、人権と国民生活向上をはかるものである。