2011年5月23日

全国地域人権運動総連合 議 長  丹波正史

  「人権侵害救済機関設置法案」の拙速な国会提案に反対します 

 いま、東日本大震災により3万人に及ぶ死者・行方不明者、15万人に及ぶ避難者、福島第1原発事故による大規模な災害などで、かつてない困難な事態に多くの国民はおかれています。復旧・復興・原発事故の収束に見通しが立たず、被災者等の人権は東電・政府により著しく侵害されたままです。政府・民主党は、この重大な人権問題の解決を最優先課題に位置づけ、総力をあげて取り組むべきです。

 1,標記の法案について、5月12~13日にかけての報道で「政府・民主党は『人権侵害救済機関設置法案』を次期臨時国会に提出する意向を表明」したとされています。2002年自民党政権下で提出され廃案となった人権擁護法案以降、様々な動きがありました。とりわけ民主党政権下の2010年6月には法務省政務3役の名で「中間報告」(新たな人権救済機関の設置について)がだされ、人権救済機関を内閣府の外局に設置することなどを公表しました。 

2,私たちは、2004年にそれまでの全国部落解放運動連合会から同和問題解決の到達点をふまえ、新たな人権団体として発展的転換をし、同和問題解決に逆行する行政や教育の終結、「差別糾弾闘争」の違法性・人権侵害の問題を訴えています。

 3,2003年10月衆議院解散にともない廃案となった人権擁護法案は、そもそも次のような問題を持っていました。①政府からの独立性など国連が示す国内人権機構のあり方(パリ原則)とは異なる ②公権力や大企業による人権侵害を除外しており、もっとも必要性の高い救済ができない ③報道によるプライバシー侵害を特別救済手続きの対象としており、表現・報道の自由と国民の知る権利を奪う ④「人権」や「差別」についての明確な規定なしに、「差別的言動」を「特別救済手続」として規制の対象としたことは、国民の言論表現活動への抑圧であり憲法に抵触する、点です。昨年6月の「中間報告」では以上の点に対する考え方が明瞭ではありませんでした。 

4,新たな人権侵害救済法案は、国会で全会一致の可決となるよう、人権委員会は権力や大企業による人権侵害のみを特別救済の対象にし、報道や表現規制をその対象からはずす。特に私人間の言論や出版の領域には踏み込まず言論の自由を尊重し、国連パリ原則にのっとった独立性と実効性が確保されるものにする必要があります。国内人権機関の設置に関わる議論は、その必要性・有用性を国民公開で行うべきであり拙速に国会に提案するべきではなく、国民的議論の手立てを講じることが先ず法務省や政党が第1に行うべきことであり、責任があります。