常識(common sense)で人権問題を考えるブログ 
地域人権運動連合 神戸人権交流協議会
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「部落差別解消法案」―国会議員の先生方、同和問題の基本的性格とその解決の歩みを学習してくださいね

  安倍政権は、「人権擁護法案」を制定し、公権力から独立した人権侵害救済機関を作れという日本弁護士連合会などの要求を拒否し続ける一方で、「障害者差別解消法」「ヘイト差別禁止法」を成立させてきました。今回の「部落差別解消法」もその一環であると考えられます。
 差別にはそれぞれ基本的性格と歴史に相違があり、よって解決手法と解決段階には差異が存在します。「部落問題」でいえば、日本国民がこれまで大きな努力を払い、確かな成果を上げてきており、他の人権問題のように改めて法的措置を必要とする段階にはありません。それは少し学習すればわかることです。
 今国会では継続審議となりましたが、参議院選挙後、またぞろ提出される可能性があり、しっかりとした学習が必要だと考え参考意見を掲載させていただきました。

ネット社会の「差別的言動」は現実を反映していますか
○「部落差別解消法案」が必要な理由として、「情報化の進展にともなって部落差別に関する状況の変化」(1条)が挙げられている。これはインターネットによる「差別的表現」の「蔓延」を想定しているものと考えられるが、ネットの内容は「解放同盟」の横暴な運動行為に対する憤懣が反映したものも多く見られ、「解放同盟」の反省と謝罪が大切だ。
 さらに、ネットでの「差別的表現」は社会的・道義的常識を逸脱している内容が多く、常識的な日本国民に対して深刻な影響を及ぼすとは到底考えられない。しかし、ネットの「差別的言動」は落書きと同じで社会の問題を反映したものもあるので敵視したりせず科学的な分析と理性的な対応が必要だ。中には、精神的疾患のある方が、自己顕示の手段として発信しているものあり、慈悲の心で対応することが大切だ。
 いずれにしてもこうした「差別的表現」については現行法に基づき、国や自治体が粘り強く対応すれば解決できる問題だ。

「人権教育・啓発法」と同趣旨の法律がもうひとつ必要ですか
○基本理念では「国民ひとりひとりの理解を深める」「部落差別のない社会を実現する」(2条)としているが、これは「人権教育および人権啓発の推進に関する法律」と同趣旨であり、屋上屋を重ねるようなものである。

同和対策事業の到達点を無視していますよ
○国および地方公共団体の責務として、基本理念に基づき「部落差別解消に関する施策を講ずる」ことを義務づけようとしている。問題なのはこの「施策」。 ご存じのように同和対策事業特別措置法(1969年)を皮切りに法改正・延長が繰り返され、33年間にわたり同和対策事業がすすめられ、国と地方自治体合わせて16兆円をこえる事業が実施された。
 その結果、同和対策事業の完了・終結が進み、政府も「同和対策の目的を達成した。これからは「人権教育・啓発」として、人権教育・啓発を推進しているのだ。

「旧同和地区住民」の自治・コミュニティの破壊をすすめますよ
こうした流れの中で「施策」を推進するというのは時代に逆行するだけでなく、神戸市内の「旧同和地区住民」の皆さんのように一般対策のもとで自立的生活している「旧同和地区住民」の自治・コミュニティに大混乱をもたらす可能性がある。
○この法案の目玉として「相談体制」(4条)を充実することを明記していますが、「人権教育・啓発法」が義務付ける「基本計画」においてその趣旨は盛り込まれており、地方自治体においてはすでに人権相談ネットワークが形成されている。
 また、法案の重要な骨子となっている「必要な教育・啓発を行う」(5条)という条文は全く重なっている。
○「部落差別の実態に係る調査」(6条)については、調査をすることで「同和」と「一般」という図式を半ば永久に行政によって固定化する。最近は、混住などで「同和地区住民」という自覚のない人が増加している。「一般地区住民」でも「同和地区」を知らない人も増えており、順調に解消に向かっている。
 調査はこの流れに混乱をもたらすことは明白だ。ネットでの差別的表現ごときでこの流れは止められない。
いま必要なのは新法ではなく「人権教育・啓発法」の是非を論議することだ
 地域人権連は「人権教育・啓発法」は廃止することを要求している。理由は差別の原因となる「遅れた意識が国民」にあるとして、国民に対する「教育・啓発」を目的としているからである。下手をすると思想統制に利用される可能性もある。
 例えば、ハンセン病問題は国が政策的に作り出した問題でありながら、「人権教育・啓発法」ではハンセン病に対する国民の差別意識が問題とされ、国の責任は曖昧にされているのだ。  

いま必要なのは公正・中立な国内人権救済機関の設置を
 安倍政権は障害者に対する差別を禁止したり、ヘイトスピーチを規制する法律を成立させてきた。しかし、その内容は「理念法」で実効性に課題が残されている。
 実際に生起する人権侵害は理念だけでは解決しない。人権を救済するための実効性のある合法的手段が必要だ。そうした点で改めて注目すべきは被害者が人権救済機関に申し立てれば、調査、仲裁だけでなく、場合によれば指導・訴訟支援もしてもらえる公的機関だ。
 そうした人権救済機関ができれば、民間の人権団体などに頼らなくても、個人でも人権侵害を解決する道が開かれ、基本的人権保障の強力な基盤ができるのだ。