参議院選挙にみられる排外主義の拡大に反対する声明 自由法曹団
参議院選挙にみられる排外主義の拡大に反対する声明
外国人や外国にルーツを持つ人々に対して敵対的な態度をとり、その人々を排除しようとする排外主義が世界中で急速に広がっている。トランプ米大統領は移民やムスリムの排斥をことさらに喧伝し、欧州ではフランス、ドイツ、イギリスなどで反移民を掲げる極右ポピュリスト政党の台頭が著しい。
日本においても同様の傾向が急速に広がっており、「外国人は生活保護を受けやすい」「外国人が増えて治安が悪化している」といった外国人への不満や不安を煽る言説がネットを中心に横行し、NHKが本年6月に実施した調査では、「日本社会では外国人が必要以上に優遇されている」という質問に「強くそう思う」か「どちらかといえばそう思う」と答えた人は64%に及ぶ。
そうした中で、本年7月3日に公示された2025年参議院議員選挙における政党の外国人政策や街頭等での選挙民への訴えが排外主義キャンペーンともいえる危機的な状況となっている。
政権与党のみならず、日本維新の会、国民民主党、日本保守党、参政党などが、外国人の存在を警戒し、排斥する方向での政策の提言を競い合うような事態が生じている。自民党は、「違法外国人ゼロ」に向けた取り組みを加速すると訴え、公明党も「不法滞在者ゼロ」を訴える。日本維新の会は、外国人比率の上昇抑制などを含めた人口戦略の策定を謳い、国民民主党も「外国人への行きすぎた優遇の是正」として外国人への社会保険の運用見直しを掲げて、日本保守党も移民政策の是正、出入国管理及び難民認定法の改正と運用の「厳正化」を唱えている。新興政党である参政党は「日本人ファースト」のキャッチフレーズを掲げ、外国人労働者の流入規制や在留外国人の規制の必要性を訴え、支持を広げている。
しかも、選挙運動においては、候補者や政治家がこれらの政策を訴える中で、外国人に対する過度な優遇がある、外国人労働者の流入が原因で日本人の賃金が上がらない、外国人労働者が仕事を失って窃盗や違法薬物の取引を行い、日本の治安を悪化させる等といった虚偽の情報に基づく演説を堂々と行っている現状がある。
排外主義は、外国人や外国ルーツの人々を貶め、その尊厳を侵し、外国人に対する偏見と差別を助長するものであることはもちろん、異なる国籍や民族間の対立を煽り、共生社会を破壊するものである。そうした排外主義がもたらす社会の分断は戦争への地ならしとなりうる極めて危険なものであり、断じて許してはならない。
そもそも外国人が日本において優遇されている事実はない。外国人には選挙権はなく、生活保護の対象も「国民」であり、行政措置として国民に準じて保護を行うとしているだけであり、外国人の増加と治安の悪化に関連性は認められていない。日本政府は、1979年に批准した国際人権規約のもと、「内外人平等」の原則に立って「国籍の別なく、所要の負担の元に、国民と同様の社会保障の実施」に務めると国連に報告しているにもかかわらず、医療、年金、国民健康保険、奨学金制度なども十分ではなく、到底、優遇といえる実態はない。
参議院選挙における排外主義キャンペーンは、「雇用が不安定だ」「生活が苦しい」「負担が重い」「将来に不安を感じている」という国民の不満のはけ口として外国人を利用し、国民の目を逸らそうとするものである。こうした不満が生まれる背景には、賃金の停滞や目減り、物価の高騰、米不足、社会保障の弱体化等による国民生活の圧迫と困窮があるが、こうした国民の圧迫と困窮を生み出した元凶は、国民生活より大企業を優先し、アメリカいいなりに大軍拡を押し進めてきた政治にあるのであって、これを推進してきた自公政権やこれに追随してきた政党や政治家こそが批判されるべきである。
自由法曹団は、排外主義の拡大に強く反対し、選挙を含めいかなる場合であっても排外主義的な言動が許されないことを訴える。そして、国籍に関わりなく、誰もが個人としての尊厳を尊重され、差別されることなく、平和に暮らせる共生社会を実現するため、全ての人々が連帯して日本社会を取り巻く問題解決に取り組むことができるよう、力を尽くす決意である。
2025年7月14日
自 由 法 曹 団
団長 岩田研二郎