1.見出し   国民の基本的人権、言論表現の自由を抑圧する「人権擁護法案」の抜本的見直しを求めています。個別人権課題に対応する法的整備を優先し、包括的人権救済は現行の人権擁護体制を改善すればすみます。国連への報告にあたっては、国内で「人権擁護」について様々な意見があることを紹介してください。

2.内容 鳩山法務大臣は07年10月末の衆議院法務委員会で、所信表明から踏み込み人権擁護法案を「国会に再提出したい」との意向を明らかにしました。 2003年に3度の継続審議を経て廃案になって以降、05年、06年と、与党「人権問題等に関する懇話会」が中心になって法案の修正、国会上程の動きがありました。 

しかし、多くの国民をはじめマスコミ、与野党の国会議員等からも、「修正」で済む代物ではなく、人権審議会答申にこだわらず制度設計の根本からの見直しが必要と指摘され、国会上程には至っていません。 

もとより法案が廃案となったのは、①人権委員会を法務省の外局とするなど国際的人権基準ともいうべき「パリ原則」とは異なり、公権力からの独立性の保証がないとの国内外から強い批判を受けたこと、②公権力と社会的権力による人権侵害を事実上除外するものとなっており、最も必要性の高い救済ができないと指摘されたこと、③報道によるプライバシー侵害を特別救済手続きの対象としており、表現・報道の自由と国民の知る権利を奪うことになるとして報道界から強い反対を受けたこと、④「人権」や「差別」についての明確な規定なしに、「差別的言動」を「特別救済手続」として規制の対象としたことが、国民の言論表現活動への抑圧であり憲法に抵触する、ものだったからです。 

私たち全国地域人権運動総連合(略称=全国人権連)は、前身である全国部落解放運動連合会当時より、国民の人権擁護と部落差別解消に奮闘し、「越えがたい壁」であった結婚問題などでの自由な社会的交流の前進に力をつくし、部落解放同盟などの暴力的「差別糾弾闘争」の一掃、不公正乱脈な同和行政の是正と終結を働きかけてきた団体です。  

人権擁護推進審議会の意見陳述では、司法制度の充実、「人権」「差別」等の名のもとに言論・表現や取材活動の自由を規制し「差別糾弾闘争」の合法化につながる法律は必要ないこと、中立・公正な人権擁護委員の選任と委員会の民主化等を主張してきました。 

一方、「人権擁護法案」の自治体版として部落解放同盟が中心となって推進した「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例」は、07年10月18日に見直し検討委員会が意見をとりまとめ、「人権問題を広く対象とし、かつ準司法的に取り扱う現条例は十分に機能せず、弊害も多く適切な運用が期待できない」と、事実上、条例廃止を指摘しました。

「人権擁護法案」についても、鳥取県人権条例と同様、人権侵害の実情の再把握と現行法規等による救済の状況などを、あらためて見直し検討することが、誠意ある対応というものです。 

私たちは、与党・政府おいては通常国会への人権擁護法案の再提出を断念し、国民の期待にかなう人権擁護の体制を、あらためて検討し直されることを強く要請しているものです。 

よって国連への報告にあたっては、人権擁護法案について国内では様々な意見があり、見直しを含む再検討の状況にあることや同和問題については問題の改善が進んだことから02年3月末で政府の特別措置を終結し一般施策、教育・啓発による対応へと変化したこと、政府は同和関係者をマイノリティー概念で括らずに対応していること、人種差別禁止に関わっては差別言動の禁止を留保し施策を実施していることを明記してください。