アイヌ民族の認定 紙智子参議院議員質疑
2011年6月6日 日本共産党 紙智子参議院議員
決算委員委員会でアイヌ政策の推進について質問
http://www.kami-tomoko.jp/nissi/nissi.htm
アイヌ政策推進会議の部会報告がだされ、「民族共生の象徴となる空間」部会、「北海道外アイヌの生活実態調査」部会のまとめが、近く報告されますが、それに先立ち、内閣官房長官に、政策推進へ、いくつかの認識を質し、推進に役立てようと質問しました。2008年に、衆参で決議を上げて以降、具体的な進展についてはこれからです。国会で超党派の議員連盟としても推進のために動いていきたいと思います。
速記(未定稿)
○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
アイヌ政策について質問いたします。
アイヌ政策推進会議の二つの作業部会が先月末に開催をされまして、それぞれ取りまとめを行いました。民族共生の象徴となる空間部会と北海道外アイヌの生活実態調査部会です。詳細は今月の全体会議で報告されるということなんですけれども、いずれも重要な中身だと思います。
二〇〇八年に衆参本会議でアイヌ先住民族決議を採択をして、有識者懇談会が報告をまとめ、政策推進会議も設置をされたわけです。教科書や北海道内の副読本の中にも記述がかなり増えてはきました。徐々に進んではきたんですけれども、本格的なアイヌの政策推進はこれからと。
枝野官房長官は、今年二月に白老のアイヌ博物館を訪問されて、アイヌの歴史や文化にじかに触れるなど、積極的に関心も示されているというふうに思います。政策の着実な推進に向けて、幾つか大臣の所見を伺いたいと思います。
まず、アイヌ民族にとって貧困の問題、生活水準向上というのは長い間の重要な課題です。二〇〇八年の北海道大学の先住民センターによる道内調査では、最も構成比率の高い所得層、年収ですね、これは二百万円から三百万円ということですし、生活保護世帯が全国平均と比べますと倍以上と。それからまた、大学進学率は三十歳未満でも二〇%程度で、同世代と比べてもこれは二〇ポイント以上低くなっています。明治以降、土地も生活圏も奪われて、根強い差別の中で生きてきたアイヌ民族が今なお貧困の中にあるという実態が浮き彫りになっているわけです。
中でも高齢者は、無年金者、あるいは年金の額が非常に低い方が多いわけです。アイヌの古老の生活と活動それ自体がアイヌ民族にとっては歴史の語り部という意味でも非常に重要な意味を持っていることに注目しなければならないと思います。
古老への特別手当が切実に求められているということと同時に、貧困を再生産しないためにアイヌの子供たちへの教育の充実、奨学金充実が強く要望されています。これらの施策の重要性について、まず大臣の御認識を伺いたいと思います。
○国務大臣(枝野幸男君) 御指摘いただきましたとおり、アイヌの皆さんの生活水準が大変いまだに厳しい状況にあるということは真摯に受け止めなければいけないというふうに思っております。
特に、御指摘いただいた貧困の再生産にならないようにという教育に対する支援について、これまでも進めてきておりますが、これは更に充実をさせていかないと、現になかなかその格差が埋まっていないという現実ございますので、これについては政府としても北海道と連携をしながら更に強力に進めてまいりたいと思っています。
それから、高齢者の皆さんについても、無年金の問題を始めとしていろんな問題があることは承知をいたしております。これについても、どういった形でそうした皆さんの、特に語り部としての役割を果たしていただくということの重要性は、これはもう言うまでもございませんので、ただ、ちょっと具体的にどういうやり方でということをまだお話ができるような状況ではございませんけれども、問題意識をしっかりと持って進めていかなければいけないと思っております。
○紙智子君 非常に切実な問題でありまして、是非具体化を図っていただきたいと思います。
それから、全国調査を政府が去年初めて行ったというのはこれは重要な取組だったわけですけれども、ただ、回答数が百五十三世帯二百十名で、当初は最大で二千世帯を目安にしていたということから見ると、かなり少ないわけです。
北海道アイヌ協会がまず道内の会員に道外の親族の紹介を受けて調査対象者を広げていく機縁法というやり方だったわけですけれども、会員数約四千名に文書で要請したんだけれども、なかなか広がらないと。最終的な紹介数は二百八十五世帯三百六十二名だったんです。この方たちに協会が電話をして調査の了解を得た人が二百四十一世帯の三百十八名と、このうちの回答が六割なんですね。
結果的にはかなり少なかったんですけれども、この点についての評価、どのように評価されているか、お聞きしたいと思います。
○国務大臣(枝野幸男君) この調査に当たってはアイヌ政策推進会議の下に作業部会を設けて専門的に調査方法等について御検討をいただいたものでございますが、結果的に残念ながら回答をいただけた数が多くないということは残念に思っております。
これについては、そもそもが十分に道外のアイヌの皆さんの所在について把握ができていないという問題がございます。それに加えて、これは大変残念なことでございますが、今なお御本人が自分で、自分がアイヌ民族であるということについて残念ながらまだまだ偏見がある中で余り知られたくないと思っていらっしゃる方が少なからずいらっしゃるという現実の下で、そうした心情にも配慮をした中で調査を進めなければならないということの中での結果であろうというふうに思っております。
引き続き、専門家の皆さん、あるいはアイヌの関連の関係の皆さんにも御意見を承って、より広範な調査ができないかどうかということについては模索をしてまいりたいと思っております。
○紙智子君 以前、一九八八年に東京都が調査をしたことがあって、このときも機縁法でやったんですね。当時は関東ウタリ会の会員十四名が面接の聞き取り調査をやったんです。それで、五百十八世帯で、世帯員数総数で千百三十四名の回答なんですね。この調査で、東京に居住するアイヌ世帯員の総数が推定でいうと約二千七百人というふうにされたんです。
だから、その数字と比べても今回すごく少ないわけで、道外のアイヌ民族の心情ややっぱりプライバシー保護に十分配慮するという点や、それから、知らない調査員からの電話ということに対する抵抗感もあったかもしれないと思います。ですから、結果の分析とともに調査手法についてもやっぱり多面的に分析をして、これからにつながるようにしていただきたいということをお願いしておきたいと思います。
次に、今後、アイヌ施策を推進していくには、施策の対象となるアイヌ民族の認定を誰がどのように行うのかと、これ、重要な課題です。それで、その点で、アイヌの課題とは性質は全く異なるんですけれども、長年人権問題として取り組まれてきた同和問題では反省と教訓があり、生かすべきものがあるというふうに思うんですね。
一九八六年の十二月に地域改善対策協議会の意見具申というのがあって、「今後における地域改善対策について」というところによると、同和問題への行政の取組に国民の強い批判と不信感が起きた原因として、国、地方公共団体の主体性の欠如が公平の観点から見て一部に合理性が疑われるような施策を実施してきた背景となってきたと厳しく指摘をしています。こういうことがやっぱり繰り返させてはならないということなんです。
施策の対象となるアイヌの認定についてはやっぱり国が主体的に判断をすると、透明性、公平性を確保した方法が必要だというふうに思うんですが、この点での大臣の御認識を伺いたいと思います。
○国務大臣(枝野幸男君) 御承知のとおり、現在、どなたがアイヌ民族であるのかということのその認定については、社団法人北海道アイヌ協会の推薦等に基づいて進めているところでございます。
これまでの取組、それから北海道における取組なども踏まえながら、御指摘のとおり、透明性や客観性を持って施策を進めていくことの重要性ということは承知をいたしておりますので、今までの経緯を踏まえながら、いかに客観性と透明性を高められるのか、その手法について検討してまいりたいと思っております。
○紙智子君 この意見具申の中では、不適切な行政運営の事例ということで、「個人給付的事業の対象者の資格審査が民間運動団体任せとなっている例」というのを挙げているんですね。こうした点も踏まえて、やっぱり透明性とか公平性ということを確保するということは大事だと思うんですけれども、もう一点、いかがでしょうか。
○国務大臣(枝野幸男君) これまでのところ、このアイヌ施策に関しては、今御指摘いただいたような危惧というのはそれほどないのではないかと私は思っておりますが、まさに国民的な御理解をいただきながら施策を推進していくという意味ではそうした危惧が生じないようにしていく、この必要性は十分承知をしておりますし、具体的な進め方にはなかなか難しいところがあるんだろうなと思っておりますので、今の御指摘も踏まえながら、担当部局において、アイヌ協会の皆さん、あるいは北海道の皆さんとも御相談をさせていただきたいと思います。
○紙智子君 国が主体的というふうに言う場合に、やはり認定の枠組みとか基準を作るということがありますし、あとその認定を行うと、この二つの機能をしっかりと行政が行うということだと思うんです。やっぱり、公金支出ということをやる以上、本当に不正が起きてはいけないわけで、傷が付かないようにというか、今後のことを考えてもですね、そこは大事な点だと思っています。
透明性、公平性を確保する方向としていろんなこと考えられると思うんですけれども、例えばプライバシー保護に配慮をした審査委員会、例えば学識経験者とか弁護士とか関係団体はもちろんですけれども、あと行政機関で構成をして事務局は行政が担っていく第三者機関だとか、そんなことも例としてお考えいただけたらというふうに思います。
それから次に、文化庁にお聞きしたいと思います。
文化庁が行っているアイヌ語、アイヌ文化の振興対策についてなんですけれども、これは二〇〇八年度から、アイヌの伝統的生活空間、イオルの再生事業の下で、三年掛けて伝承者、担い手育成が行われてきました。
第一期生が、五名が今春ですね、春に修了して二期生が五人始まっています。カリキュラムは、アイヌ語を中心に工芸、刺しゅうや木工、それから食文化、植物と。専門では、男性は刀作りとか、女性は、アットゥシというアイヌの衣装がありますけれども、この服を縫う。そのためのオヒョウの樹皮を剥いで、機織りなんかも含めてやっていると。一日六時間、月に二十日間で三年間やっているわけです。
ここでアイヌ語、アイヌ文化の担い手として鍛えられていくんですけれども、これ自身が講師養成が主眼ということでありまして、一年目から模擬授業も行って教える訓練も積んでいるわけですね。ですから、白老町民に公開模擬授業もやったりということになっていて、カリキュラムも見せていただいたんですけれども、中身としては密度が濃くて非常に重要な役割、受講者の効果あるというように思うんですけれども、これ、文化庁としてどういった役割、効果というふうにお考えかということを端的にちょっとお答え願います。
○政府参考人(吉田大輔君) ただいま御指摘の伝承者育成事業の関係でございます。
今、紙先生がおっしゃられたような内容でございますけれども、アイヌの文化を伝承する方々の養成ということで平成二十年度から実施をしております。中身は、アイヌの人々に継承される工芸技術、あるいは芸能、さらにアイヌ語など、アイヌ文化に関します総合的、実践的な知識や教養を身に付けていただくということを目的にしております。
平成二十年度から三年間のカリキュラムで第一期生を育成をしてまいりまして、育成の場所としては、アイヌ民族博物館を中心に育成をしてきております。ただいま御指摘のありましたように、この春に五名の受講生が修了をしたところでございます。この五名の修了生の皆さんは、その育成の場になりましたアイヌ民族博物館におきまして、アイヌ語の翻訳あるいは展示の解説などの業務などに従事をしていただいたりしておりまして、アイヌ文化の伝承者としてアイヌ文化の振興や普及に貢献をしていただいているというふうに認識をしております。また、今年度から第二期の伝承者育成事業を開始しております。第一期と同様、五名の受講生の方に参加をしていただいて、今現在育成を続けているというところでございます。
私どもとしては、これはアイヌ文化の伝承の重要な方法の一つとして、今後ともその充実に努めてまいりたいと考えております。
○紙智子君 この伝統文化をしっかり学んだ担い手の方をいかに生活あるいは仕事に結び付けていくのかというのは課題なんですよね。
それで、一期生の方にお聞きしたんですけれども、将来、専門の仕事に就けるかどうか分からないという不安を抱えながら懸命に頑張ったということなんです。それで、アイヌ語というのは英語よりも未知ですね。非常に難しいと。非常に難しかったと。アイヌ語の弁論大会なんかもやるんですけれども、そこで発表もして頑張ったわけだけれども、非常に勉強になったと、一生懸命学んだことでそれを生かす仕事に就きたいという気持ち、それが非常に湧いてきたと、強くなったというふうに言っています。
この育成事業を通じて、本当に一人一人がそういう意味では成長もしていくし、その力を次に生かしていくことができればというふうに思うんですね。イオルの設置の要望というのが今、白老と平取のほかにももっとということで出されているんですけれども、やっぱり各地のイオルに配置するということも重要なんじゃないかと思うんです。象徴空間も、これも進められているんですけれども。
そこで、官房長官に、やっぱり修了者の皆さんが学んだことを生かせる場所を保障していくということがすごく重要だというふうに思うんです。それがやっぱりアイヌ語あるいは文化の大きな広げていく力になるんじゃないかというふうに思うんですけれども、この点について官房長官の御意見を伺いたいと思います。
○国務大臣(枝野幸男君) 御指摘のとおりだと思います。せっかくのアイヌ文化の伝承のために学ばれたことがその後の生業へとつながっていきませんと、本当の意味での継続した広がりを持った活動にはなっていかないというふうに思っております。
一つは、そうした学ばれたことを直接生かす形での一つは学術研究の場、それから民芸品とか観光とかというような側面で学ばれたことが生かしていける場というようなことについて、直接的に政府として支援をしていくというか、場を広げるということを一つはできる限り進めてまいりたいというふうに思っております。
それからもう一つ、ちょっと余計なことかもしれませんが、このアイヌの文化についての伝承あるいはその普及というものを広げていくためには、まさにコアとなる伝統的なものをしっかりと軸としてつないでいっていただくということと同時に、その周辺部分で広がりを持ったアイヌに対する御関心を多くの国民の皆さんが持っていただくとか、あるいはアイヌ民族以外の方がアイヌ語を勉強してみようとか、そういったことの広がりが必要だろうというふうに思っておりまして、そういった努力をすることによって、これは直接の政府の支援だけではなくて、そういった場が広がっていく努力も進めてまいりたいと思っております。
○紙智子君 特にアイヌ語の振興ということでいいますと、これ、二〇〇九年二月に有識者懇談会で千葉大学の中川裕先生が述べられているんですけれども、アイヌ語は数百年にわたる政治的、経済的圧迫によって現在の状況に陥らされたと、そこからの回復は十年、二十年で簡単に達成できるものではないと、しかし、同様の状況は今日の世界的な課題であり、世界の様々な国家、民族がその問題に取り組んでいる、アイヌ語の復権が達成できれば国際的な快挙であり、大げさではなく日本という国が民族問題における世界のモデルとして高い評価を受けるであろうと言っているんですね。
最も重要なのは、アイヌ語を学ぼう、アイヌ語にかかわろうと思っている人たちの意欲をそがないようにすることだと、早急に成果を求めるのではなくて、今おっしゃいましたけど、裾野を確実に広げていくことが目標に近づく道なんだというふうに言っておられて、言わば、そういう意味では壮大な、そういう民族にかかわる取組を継続するためにも、担い手が次につながる方策を是非とも取っていただきたいということを申し上げまして、質問を終わります。
ありがとうございました。