福岡県地域人権運動連合会(会長 平塚新吾)、筑後地区地域人権運動連合会(会長 松崎辰義)は連名で、2010年3月1日、久留米市教育委員会あてに 「久留米市立高校教諭の偽計業務妨害事件についての真相の究明と事件を理由にした「同和」教育強化に反対する申入れ」を行いました。

 申し入れ事項
1 市立高校教諭による脅迫、偽計業務妨害事件の背景をふくむ真相の徹底的な究明を求める
2 事件の善後策については、外部の団体等に判断を委ねるのではなく、あくまでも市教委及び学校が主体 的に対処されたい
3 事件を理由にした「同和偏重」の教育及び研修にならないよう厳に戒められたい
 
申し入れの理由
 今年2月22日付け、新聞各社の報道によれば、久留米市立高校の生徒指導主事の教諭(37)が生徒指導のトラブルから生徒の保護者を脅迫する文書(封書、はがき)を送付し、市教委に17回も対策会議を開かせて本来の業務を妨害させたとして「脅迫と偽計業務妨害罪」で逮捕された。文書には「どうしてきさまのような部落が偉そうにできるのか」と保護者を中傷するものもあったとされる。
 生徒指導をめぐる教諭と保護者の間で、どのようなトラブル、感情の対立があったとしても反社会的な言辞を弄し、相手を誹謗中傷する卑劣な人権侵害行為は許されるものではない。今回の事案は、教諭による保護者への人権侵犯であり、学校関係者に与えた影響は小さくない。
 事件の真相はまだ明らかにされていないが、新聞記事等で聞き及ぶ範囲で類推するに、校則違反の喫煙行為を指導した生徒指導主事の教諭に対し、保護者側が指導の対応に不手際があったと逆に学校側に抗議し、校長らに謝罪させたことに「それでは仕事はできない」と憤慨した同教諭が、匿名の文書で保護者を脅迫し、県教委らに不満を訴えたものといわれている。
 喫煙問題が発生したのは2009年2月頃で、学校側の謝罪で「トラブルは解決したと思っていた」(校長の談話、朝日新聞2月22日)。しかし、その直後から昨年12月までに同教諭は15通の封書、はがきを同高校や同僚教諭、県教委(市教委)に送りつけ、トラブル相手の保護者には昨年9月から10月にかけて封書とはがき計6通を送りつけて脅迫した。
 今後、学校と市教委は自主的主体的に生徒指導とトラブルの背景などの事実関係を徹底的に明らかにし、学校教育の観点から今後の生徒指導に役立つよう解明にあたるべきである。その際、一部の外部運動団体からの一切の介入も排除されなければならない。今回の事件は、あくまで学校の教育課題として教育の中立性を確保し対処すべきである。市教委の適切な指導及び対処を求める。
 最後に、今回の事件は、学校現場の事件であることから一部の運動団体から「同和教育行政の形骸化」として「同和」教育・研修の徹底をもとめる声が早速、新聞紙上で紹介されている。
 市教委は23日に市立の小中高66校の校長会を臨時に開き、席上、堤正則教育長は「部落差別を利用して市民を脅迫するなど、あるまじき行為で断じて許されない。教職員への人権・同和研修が十分でなかった」として、「今後、人権教育の研修、啓発の再構築を図っていく」と「同和」偏重の教育・研修の強化を示唆したといわれている。
 この教育長の訓話は、事の発端を隠蔽し問題のすり替えに他ならず、学校側が自主的教育的に生徒指導を行うことが困難となり、同和問題にかかわる啓発、研修を一部運動団体いいなりに行うことで、学校現場はもとより市民をして「同和はやっかいな問題」と敬遠させることにしかならない。今日、社会問題として基本的に解決をみている同和問題の到達を後退させることになり、決して容認できない。
 学校現場で起こったことは、いかなることでも学校の主体と自主性で解決すべきで、たとえ同和問題にかかわって児童生徒及び教諭等に問題行動があった場合でも、同和問題を聖域化せず、学校が教職員の総意をもって主体的で適切に対処すべきである。教育行政の役割は学校が自主的主体的教育的に導き出した結論を尊重し、地域社会や保護者とのあいだで納得と合意ができるよう条件整備を行うことこそとるべき立場である。
 以上のことを強く申入れる。